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黒沢清『岸辺の旅』との旅   西田宣善

黒沢清監督といえば、いわゆるシネフィルに絶大な信頼がある監督である。彼の新作ならば、彼らは有無を言わずに絶賛する。私は決してシネフィルではないので、好きな監督ではあるが必ずしもすべての作品をいいと思っている訳ではない。
黒沢作品との出会いは、『しがらみ学園』だったと思うが、8ミリ時代に遡る。
その後、『ドレミファ娘の血は騒ぐ』などの商業初期作品を経て、念願だったホラーに挑んだ『スウィートホーム』、そしてホラーの傑作『CURE』『回路』『叫』……。非ホラーでは、『アカルイミライ』『トウキョウソナタ』が好きだ。
新作『岸辺の旅』はホラーではないが、妻(深津絵里)が死んだ夫(浅野忠信)と旅に出るという設定からして、一種の怪奇映画といっていいと思う。
ロード・ムーヴィーではあるが、移動感は希薄で、紡がれて行く映像もどこか薄い感じがする。描写や演技も淡白で、編集が私のリズムに合わないので、少しイライラする。
小松政夫、赤堀雅秋をはじめとする俳優が死者を見事に演じていて、彼らの出る場面は全く飽きない。
小松が演じた新聞配達の男が消えた時、部屋の壁一面に飾ってあった造花の花弁が一斉に灰になり、部屋がたちまち廃墟になるところなど、美術が素晴らしいと思ったら、名人の安宅紀史だった。
撮影は近作の黒沢作品を手がけている尊敬する芦澤明子で、今回、柄本明のパートから構図を意識的に変えられたような気がするが、どうだろうか。
通常の日本映画よりもメリハリの効いた音響も印象的だが、これはフランスとの合作なので、仕上げを当地で行ったよう。音楽はオーケストラで、盛り上げるような曲調で、監督はダグラス・サークのようなメロドラマの音楽を狙ったらしく、私はこういうアプローチは好きである。
SNSでこんなことを読んだ。『スター・ウォーズ』の新作であの監督だから楽しみだと言ったら、すごく引かれた、と。一般の観客は全く監督のことを考えないで見ているということだ。その点、監督によっては、映画を見ていて、その演出の手つきをビンビン感じさせる人がいる。黒沢清監督はその典型であり、演出から「映画的」な光や音を強く感じさせ、そこがシネフィルには堪らないのだと思う。その反面、一般の観客には伝わらないところがある。本作のレビューを見ても、「わからない!」の一言の人もいた。
監督で映画を見るなんて、当たり前のことだと思うし、そんなことは学校で教えてほしいぐらいだが、かといってシネフィリーというか、映画絶対主義のようなものが主流になられるのもどうかと思う。だから、黒沢監督にはもう少しレンジの広い映画を作ってほしいと私は願っている。