1965年。皇太子ご成婚、東京オリンピックにより加速したテレビというメディアが、日本映画界に陰を落とし始めた頃のこと。とある映画撮影所では、主演女優・吉野恵子 の引退記者会見が行われていた。恵子が結婚・引退を選ぶ一方、共演のスター俳優・ 三原健は、次作を若手にさらわれ、荒れていた。酒でうっぷんを晴らす彼を優しく諭す 妻をも、彼はつらく当たり追い返す。その直後、スタジオに千鶴の訃報が届く。
2000年。同じスタジオ。テレビ・ディレクターが人気番組の映画化『ドクター鮫島 THE MOVIE』 を撮影中。映画の現場に不慣れな監督に、周囲は違和感を感じている。小道具のアシスタント、ミオも、不条理な現実に、意欲を喪失気味だ。そんなとき、ひとりの老人が、小さな役の代役と してやってくる。それは、かつてのスター三原健だった。酒に溺れ、仕事を失い、世間からも忘れられた彼が撮影所に現れた理由は。スター時代の三原を知らないミオは、不思議な老人に次第に心を動かさ れていく・・・。
かつて、日本映画にも黄金期があった。そして、その時代、映画産業に関わった人々の映画への熱き思いは、 産業的には苦戦を強いられる日本映画にも脈々と息づいている。
妻の死をきっかけに酒に溺れ、スクリーンから姿を消したかつての大スターと、映画に希望と夢をもつ、 若く純粋な女性映画スタッフ。『ラストシーン』は、世代に隔たりのあるふたりの束の間の交流を通して、 受け継がれる、映画への想いを軸とした、切なくハートフルな人間ドラマである。
全盛期である1950年代には、世界の映画人口は11億人を数え、1960年には1年間に 547本という日本映画が公開されていた。だが、テレビという新しい娯楽の出現によって、その勢いも 急速に衰えをみせる。
『ラストシーン』の冒頭で展開されるのは、日本映画黄金期の象徴ともいえる スターシステムの崩壊の断片である。中田監督はスターシステムとともに崩れ去った撮影所システムの 末期に、映画界入り。この映画を撮ることは、古きよき時代の日本映画を知る最後の後継者としての 使命だったのかもしれない。
実際に日本映画の変遷を背景にしながらも、『ラストシーン』の基軸となるのは、人と人との絆に 他ならない。看板スターと大部屋俳優、撮影所世代とテレビ世代、死に行く者と生き残る者。決して 交わらないであろう対称的な人々が、この映画の中では、奇跡ともいえる接点を見出すのである。なぜ、 往年のスターが撮影所に戻ってきたのか?
さりげない謎が解き明かされるラスト・シーンは、まさに時代や空間を超えて繋がる、 人間の引力を象徴する感動的なシーンである。